住まい手訪問

石場建てによる本格的な伝統構法の家です。当初は、築170年の民家の再生という相談でしたが、次の170年をめざすべく、長寿命をめざせる石場建てで新築に。スタイリッシュに暮らされているご家族の声を聞きました。

平成の古民家をめざして

なつかしい「おじいちゃんおばあちゃんの家」の記憶を、未来に引き継いでいきます。そのために石場建てを採用しました。

<石場建て>

野口さん(夫) ここのすぐ裏に両親と住んでいたので、この家は、ぼくにとっては「おじいちゃんおばあちゃんの家」でした。古くなってきてはいるけれど、開放的な田の字プランのいい家だったので、なんとか残ししたいとかねてから思っていた折、宮内さんが「情熱大陸」で古い家を素敵に直してたのを見て、すぐに相談をしました。

宮内 実際に見に来てみたら、「ご苦労さん」と言ってあげなという状態だったので、「170年後に『平成に建てられたいい古民家』と言われるような家をめざしましょう」と。そこまで持たせることを考えて、この家がそのように建てられていたのと同じ「石場建て」しかないな、と直感しました。

川端 石場建ての家は、柱が石の上にのっかっているだけで、地面と家とがつながっていません。50年、100年に一度という大地震の時に、柱の足元が動くことによって、住む人を守るつくりです。また、家の足元があいているので、通気性やメンテナンス性がよく、家が長持ちします。170年というタイムスパンで考えるなら、やはり石場建てですね。

野口さん(妻) 
工事費は多少かかりますが、長い目で見ればそれだけの価値がある。そう判断して、石場建てにしました。

<ビフォー&アフターの比較:正面から見た姿は、元の家の形とそっくり。縁側の建具のガラス割も、元の家と同じにしました>

本物に囲まれた
納得のいく暮らし

本物だから美しい。美しいから愛され、後世に残る。残り得るだけのメンテナンス性と可変性をもっている。それが伝統構法が「長寿命」と言われるゆえんです。>

野口さん(妻) 自分たちが納得したものの中で暮らしたい、とずっと思ってきました。棄てるのがいやなので、最後まで使えるもの、直して使えるものを選びます。そうやって暮らして来て、今、この家がほんとに快適で、家にいるのが大好きです。本物って偽りがない。そういうよさです。

<美しい写真何枚か>

宮内 宮内:この家が170年という長い歳月、ここまで残ってきたのは、構造的に長持ちする性能があったから、という以前に「美しかったから」だと思います。美しいからこそ、飽きがこない。代替わりしても愛着をもち、大事に使い、時にメンテナンスもしながら、次の世代に渡してきたんだと思います。野口さんご夫婦も、新しく建ったこの家を愛し、大事に住んでくれてはるなと来るたびに思います。

野口さん(夫) ぼくの親たちと同じ屋根の下の同居ですが、お風呂も台所も別々にしてあります。家が長く住み継がれていくためにも、世代間の距離はちゃんとある方がうまくと思います。それでも、何かあった時のために、家の中で引き戸一枚で行き来できるところは、作っておきました。

宮内 
日本人の家族関係だけでなく、生活スタイルそのものが、ここ半世紀でガラっと変わっていますから、昔ながらの間取りや使い勝手のままをそのままになぞってはいません。そんな時代や生活の変化を包み込むだけの懐の深さを、伝統構法の家はもっていますね。

野口さん(妻) 伝統構法の家でも、こんなにカッコよく、快適で便利な「今の暮らし」ができるんですよ。だったら、長持ちして、次の世代に継いでいく価値のあるものを建てた方が、いいじゃないですか!そのことを、これから家づくりを考えるみなさんにも、ぜひ、お伝えしたいですね。

土壁の家と相性のいい
蓄熱型のメンスリーストーブ

伝統構法の家は寒い? それは昔の話です。温熱環境性能も考えてつくれば、ぬくもりのある、あたたかい家が作れます。

野口さん(妻) 前の家はいい家でしたけど、すきま風も入るし、床から冷気があがってくる、冬は寒い家でした。暖房はコタツと石油ファンヒーターだけで。それはなんとかしたかったです。

宮内 
土壁は、外側を大壁とし、20センチの厚みを確保し、外回りの建具はペアガラス仕様のしっかりした木製サッシに。床下にはフォレストボードという杉樹皮の断熱材を入れました。

<メンスリーストーブのある居間>

野口さん(妻) 野口:かなり開放的な家ですが、メンスリーストーブという薪を焚いた輻射系暖房一台で、あたたかく、真冬でも朝起きると、室温は15度はあります。無垢材の床は冷たくないので、子供はいつも寝っ転がってゴロゴロしています。

野口さん(夫) 
野口:「薪を割ったり、大変じゃないの?」と言われることもありますが、やってみれば、休みの日の気分転換になって楽しいですよ。ガッと燃やしてストーブ本体が蓄熱してしまえば、あとは消えないようにくべていればいいから、そんなに手間でもないですし。前の家の梁や柱を切ったのが薪になっています。ほんとに最後まで無駄がないですよね。

<こどもゴロゴロ>

「変形しながら、粘る」伝統構法の耐震性を
限界耐力計算で構造安全性を証明

ここに元あった家の170年の歴史の最後は、伝統構法の研究のための静的加力試験の役に立って、幕を閉じました。

宮内 「昔からのつくりの家は耐震性が低い」のではありません。石場建てはむしろ、最後まで人命を守り抜くつくりです。ぼくも川端さんも委員になっていた伝統的工法の構造性能を検証する検討委員会で、石場建ての実験に何度も立ち会って、「壊れ方」を目の当たりにすることで、自分なりに学ぶ機会をたくさんいただきました。科学的な裏付けを元に、自信をもって石場建てをお勧めします。

<検討委員会での損傷観察>

川端 
川端:今の建築基準法の仕様規定は、地震に対して「変形しないで、かたくもちこたえる」在来工法しか、対象にしていない。伝統構法の地震に対する構えは、それとは発想が違っていて「木のめりこみを生かし、変形してもなお、粘り強く踏ん張る」というつくりが伝統構法なんです。

宮内 やっと最近研究が追いつこうとしているところなので、石場建てで、土壁で、南面は開放的な縁側というつくり方をするには、仕様規定とは別に、独自の構造計算が必要となります。そこで、川端さんに限界耐力計算による構造設計をしてもらい、基準法で想定する以上の巨大地震に遭っても、住む人のいのちを守る耐震性能を担保できるよう計画しました。

野口さん(夫) 
この家も、みなさんの研究の一環として、静的加力試験に使っていただきました。目の前で引っ張られて、傾いていく家を見るのはせつなかったですが、かなり傾いても粘り強くこらえる様子を見て、すごいものだな、と思いました。先祖が大事に使ってきた家が、最後にお役に立てて、よかったです。

<静的加力試験>

<宮内アップ>

宮内 宮内:これからも「美しいからこそ残っていく」、そして、後の世の人に「平成の古民家」と呼ばれる家づくりをしていきます。